春日大社境内万葉歌碑

萩の花をばな葛花なでしこの花をみなへしまた
藤袴あさがほの花其二

(万葉集巻八 1538 山上憶良)

 植物は、 衣食、 薬料、 染料など生活の実用から、 徐々に観賞を生み、 都市貴族の宴のこの歌も観賞の眼から歌われます。 ハギは万葉の花のうち最多141首とか、 ヲバナは穂すすき。 「野」 に限らず、 中国風に園(その)好きにみやびた邸の 「花薫庭」 (巻十七3957) にも映え、 ナデシコも庭に移されもして親しい花でした。 漢字 「萩」 は、 日本で秋を飾る花として後にハギに宛てます (中国ではヨモギ類の意) が、 万葉ではまだ使われていません。 葛花・藤袴はともに万葉にこの一首だけ。 ナデシコの・アサガホの花の 「の」 は 「が」 とも訓め、 アサガホは、 今の牽牛子 (あ さ が お)・旋花(ひるがお)・木槿(むくげ)・桔梗など諸説があります。 漢字 「舜」 を中国の古字書に 「地に蔓(は)ひ生ひて華(はな)を連(つら)ぬ」 と解くのは牽牛子、 『詩経』 に女の 「顔(かほ)如舜華」、 この舜を古注しては木槿とします。 牽牛子の渡来は平安時代ともいい、 野生の原種は奈良時代にあったなどともいい、 平安時代の辞書には桔梗をも牽牛子をも、 ともに 「阿佐加保」 と訓みました。 いま、 「朝がほは朝露負(お)ひて咲くといへど夕かげにこそ咲きまさりけれ」 (巻十2104) などとともに、 桔梗の花と解したい。 草本でありたい感じです。
 「また」 は、 反復の意の副詞ではなく、 並立・付加の意の接続詞。 漢籍や漢訳佛典に「復・又復」 などと散見する散文語で、 これを歌に使ったのは、 憶良の独創かと思われます。
 七種(くさ)はやがてヲミナヘシのことばや藤袴の香にも女ひとの色を深め、 カキツバタなどをあわせて、 倭絵(やまとえ)や文様に日本の情趣をあやなすでしょう。 「秋の七草(くさ)」 は、 渡来系説もある憶良に始まりました。

本田義憲先生監修

(奈良市に万葉歌碑を建てる会専門委員・奈良女子大学名誉教授)

春日大社境内(2)
 JR・近鉄奈良駅→市内循環7分「大仏殿春日大社前」下車南東へ徒歩3分

揮毫者  奈良市在住  前 田 圭 立

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