檜皮を葺くベースとなる木材は、のきづけをかたどるように、すでに丁寧に整えられている。その上に、両手でひとつかみほどの檜皮を、高さを均一にそろえて置く。
箱の中に入った竹釘を握り、口にほおばる。
右手には「屋根がな」という、専用の道具が握られている。一見ふつうの金槌のように見えるが、釘を打つ金属の部分がサイコロのように立方体をしている。屋根がなを持った右手が口元に近づくと、口の中から一本、竹釘がとびだしてくる。その竹釘は右手に捕まえられ、まばたききするうちに檜皮の重なった屋根に突き刺さる。屋根がなの柄には、これに好都合なように、竹釘を刺すためのくぼみがあるという。すかさず、あらためて数回、「トン、トン、トン、トン」という音とともに屋根がなが降り下ろされると、竹釘は皮の厚みの中に沈んでゆく。「檜は竹釘をさした時、締めつけてきますが、杉はそうはいきません」と以前の取材で聞いたのを思い出す。この間、わずか3、4秒ほど。これが根気よくくり返され、のきづけが形になっていく。ある程度重ねるごとに、屋根がなの平たい頭の部分を使い、たたきながら面をそろえる。最後はここを「ちょんな」という刃物で化粧断ちするのである。こうして、のきづけのスキッとした切り口や、形状が生まれるのだ。
塔の屋根は四方にむかってせり上がるような形をしている。さらに、のきづけの断面も、下から上にむかって内から外へと角度がある。檜皮を重ねながら、そのカーブを出していかなければならない。重ね終わる段階になると、皮は一枚ずつ、微調整しながら並べ、最後はやや厚い上目皮を並べる。上目皮を敷くところは、上の層からの雨おちの部分でもあり、最もいたみやすい部分。上目皮はこれを守る働きもある。
そっと竹釘を手に取らせていただいた。長さ3、4センチ、マッチ棒よりも少し太いくらいに竹を削ったものだ。刺しこむために、一方が斜めにカットしてある。屋根全体を葺くのに無数の竹釘を使う。
静かな時間が流れている。竹釘を打つ音が一定のリズムを刻んでいる。
同時に別の層では、壁の色を塗り直すための下地の作業が行われてもいた。これには、塗装関係の専門業者があたる。