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| 文/阿南誠子 | ||||
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塗りのプロセスについて聞いてみる。 「最初はかきおとし。へらで、古い塗料を落とします。木に刺さったり、木がささくれたりしないように気をつけて。この現場は特に気をつけないと」 「それから、水ぶきですね。実際にはお湯ですけど。それで残った膠をふき取るんです」 そして、一年で一番寒い時期にさしかかると、次の下塗りが始まるまで、作業はしばらく中断する。色材と混ぜる膠が、寒い時期には固まってしまうからだ。気温十六度を下回ると、作業の能率に影響がでるという。下塗りが始まったのは四月のことだ。 「下塗りは、どうさという、膠と水とみょうばんをまぜたものを2回塗ります。『吸い込み』といって、木が塗料を吸い込むのを防ぐためです」 「次は、中塗り」ここから色彩がほどこされる。一度塗ってから、もう一度仕上げ塗りをする。 彼が木口に黄土を仕上げ塗りしている今は、この工程が最後に近いことを物語っている。「あと二日ほどでできると思います」 今回塗りを請け負っているのは斎藤漆工芸という千葉県の業者だ。昨年暮れから、三〜四名の作業員がやってきて、この工程が始まった。彼も関東から長い出張に来ている。年中、どこかへ出張して伝統的建造物の塗りにあたるのだ。 |
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「この仕事には、興味があったのですか?」 仕事中の手を止めてはならないと思いつつ、話しかけてしまう。 「高校生のころのことですけど、ひとつ年上の先輩がこの会社にいて、現場を見せてもらったことがあって、楽しそうな仕事だなあと思ったんですね。前から大工のような仕事には興味がありましたし」 楽しいばかりではあるまい。 |
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「でも、できあがってくると、だんだんうれしくなってくるんです。この現場も、もうかなり『やったな〜』という気持ちが高まってきてますね。また見に来ようと思っています」というのは、素屋根をはずした姿を見る前に、彼の仕事は終わるからだ。「いずれまた、仕事で奈良に来ることがあると思うんですよ。そういう時に、ここまで来て、見ればいいから」 国宝にかかわったということが、きっと若い彼の喜びや、ひとつの誇りとなることだろう。 復旧工事完成のお祝いムードが過ぎ、静かになった塔を見上げる若者の姿が目に浮かんだ。 |
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第一回の取材の時、屋根のあっけないほどの小ささと、足下のたわみに気持ちを揺さぶられた五重にのぼってみると、真新しい相輪がそびえ立っていた。何もかもが、出来上がりつつあった。 変わらないものを見るとき、なぜか人の心は安らぎを覚える。ずっとずっと昔からあり、そして今もあるもの。できることなら、これからも変わらずに、いつまでもそこにあってほしいと願うもの。室生寺五重塔も、人々にとってそういうものだっただろう。それが台風に打ちのめされ、多くの人が大きな喪失感の中に沈んだ。大切に守られ、受け継がれてきたものだから、よもや壊れるはずがないと、考えてみれば根拠もなく思っていたところがあったのかもしれない。それが、あらがい難い力によって、容赦なく打ち砕かれた。同じことが、時に人の人生にも訪れる。しかし、この世に変わらないものなどあるだろうか。ひそやかに 今、素屋根を脱ぎさる時を待つ室生寺五重塔は、古の姿を、新旧の素材で象り、多くの人の思いと努力によってよみがえりつつある。 せよ、激しくにせよ、すべては変化し、再生している。 この連載を終えた後も、何かを失ったと感じる時や、どこか遠くへ行きたくなった時などは、傷つき、立ち直った、この可憐な塔に励まされてみたいと思った。 | |||
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